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2026年2月14日 · 三重県伊賀市

冬の水は硬くなる — 灯酒造の11月から3月

三重県伊賀市。年間350石、蔵人5人。仕込みタンクの一本目が、その冬の全部を決めます。

灯酒造の仕込み蔵。タンクの並びと、二階へ上がる木の階段

蔵と、45センチの土壁

灯酒造は1897年、伊賀街道沿いに建ちました。当時は醤油と味噌も造っていて、酒だけになったのは戦後です。いまの建物は明治期の土蔵と、1974年に建てた仕込み蔵の二棟。土蔵のほうは壁が45センチあり、夏でも中は26℃を超えません。古酒はここに置いています。

伊賀の水は、なぜ発酵が遅いのか

五代目の芝原実さんは杜氏を兼ねています。大学で発酵を学んだあと、10年間は新潟の蔵で働きました。伊賀に戻ったのが2009年、37歳のときです。「向こうの水は硬くて、発酵が速い。伊賀の水は硬度30で軟らかいから、同じ造り方をすると間に合わない」。戻って最初の3年は、発酵日数を毎年2日ずつ延ばしていったそうです。

米はどこから来るのか

仕込みは11月中旬に始まります。米は3軒の契約農家から。山田錦は兵庫県三木市から、神の穂は伊賀市内の田から届きます。神の穂に切り替えたのは2013年で、いまは仕込みの6割。「県が作った米を県内の蔵が使わないのはおかしい、というだけの理由です」と芝原さんは言います。

麹室では何をしているのか

麹室は杉板張りで、広さは12畳。蒸した米を人の手で広げ、種麹をふり、48時間かけて菌を回します。この間、2時間おきに温度を測るため、蔵人は交代で泊まり込みます。1月の伊賀は朝の気温が氷点下2℃まで下がり、麹室の中は35℃。この温度差の中を行き来する仕事が、いちばん体にこたえるそうです。

にごり酒の甘さは、その年の寒さ

1月の10日間だけ、にごり酒を仕込みます。粗い袋で搾って米の粒子を残す造りで、酵母は寒さのために糖を食べ切らずに止まります。「雪灯の甘さは砂糖じゃなくて、その年の寒さです」。暖冬の年は、日本酒度が2〜3ポイント辛くなると言います。

中取りだけを瓶に詰める

搾りは槽(ふね)です。布の袋に酒を詰めて積み重ね、まず自重で落ちる分(中取り)を取り、そのあと少しずつ圧をかけます。初灯に瓶詰めするのは中取りだけで、タンク一本1,800リットルからおよそ900本。2月に出荷し、なくなればその年は終わりです。

なぜ10年置くのか

3月の終わりに甑倒し(こしきだおし)——その年の最後の蒸しが終わる日——を迎えると、蔵人は田んぼの仕事に戻ります。芝原さんは、この時期に前年の酒を全部利き酒して、10年後に残す一本を決めます。2015年に残した一本が、2026年の2月に出た十年灯です。「残すと決めるのは簡単ですが、10年間、毎年2回は瓶を並べ替えて様子を見ます。忘れていられる仕事ではありません」。

灯酒造

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